3. 既存言語との比較
3.1 関連する言語・フレームワークの概観
MOISE+: 組織的マルチエージェントシステムのための構造的・機能的・義務論的記述モデル [Hübner+, 2007]。組織の役割・グループ・ミッションを形式的に記述できるが,契約やアルゴリズムの記述は範囲外である。
OperA: エージェントベースシステムのための組織モデル [Dignum, 2004]。社会構造・相互作用構造・規範構造の3側面から組織を記述する。プロトコル記述に一定の対応があるが,SoSの制度層は扱わない。
Symboleo: 法的契約の形式仕様言語 [Sharifi+, 2020]。契約の当事者・義務・権利・違反条件を厳密に記述できるが,組織構造やプロトコル,技術アーキテクチャとの統合は範囲外である。
AADL契約拡張: Architecture Analysis and Design Language [Feiler & Gluch, 2012] に契約概念を導入した拡張。assume-guarantee契約をアーキテクチャ記述に統合するが,SoSの制度層は設計対象としていない。
SysMLv2 / HAMR: システムモデリング言語の次世代版 [OMG, 2025] と,AADL向けに開発されSysMLv2にも対応するモデル駆動のコード生成ツールチェーン [Hatcliff+, 2021]。アーキテクチャ記述に優れるが,制度設計変数の記述は範囲外である。
スマートコントラクト(Solidity等): 分散的な自己統治を実現する実装基盤。代表的な言語にSolidity [Solidity Documentation] があり,有限状態機械に基づく安全なコントラクトの設計手法も提案されている [Mavridou & Laszka, 2018]。C-SoSのガバナンス実装に有望だが,制度の設計段階での検証や3層統合記述は提供しない。
IADフレームワーク: Ostromの制度分析・発展フレームワーク [Ostrom, 2005]。共有資源のガバナンスを概念的に分析するが,形式的な記述言語ではなく,パラメータ化は限定的である。
3.2 比較分析
SoS制度設計に必要な要件に対して,各既存アプローチの対応状況を以下の表に整理する。凡例: ◎=中核機能,○=部分対応,△=限定的,×=対象外。この評価は,各言語の仕様と付録Bの文献に基づく筆者らの整理である。CADLの列は言語設計上の対象範囲を示すものであり,現行のリファレンス実装がすべての項目を提供済みであることを意味しない。
| 要件 | MOISE+ | OperA | Symboleo | AADL拡張 | SysMLv2 | スマートコントラクト | CADL(本言語) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 組織構造記述 | ◎ | ○ | × | ○ | ◎ | × | ◎ |
| 契約記述 | × | × | ◎ | △ | × | ◎ | ◎ |
| プロトコル記述 | △ | ○ | × | △ | △ | △ | ◎ |
| アルゴリズム参照 | × | × | × | ○ | ○ | △ | ◎ |
| SoS制度パラメータ化 | × | × | △ | × | × | × | ◎ |
| 動的制度切替 | × | × | × | × | × | × | ◎ |
| 形式検証 | △ | △ | ○ | ◎ | △ | △ | ◎ |
| ランタイム監視 | △ | △ | × | △ | × | ◎ | ◎ |
| 環境モデリング | × | × | × | △ | ○ | × | ◎ |
| AI統合 | × | × | × | × | × | △ | ◎ |
3.3 CADLの独自性
筆者らが調査した範囲では,全ての要件を単独で満たす既存アプローチは見当たらない。CADLの特徴は以下の3点に集約される。
(1) 3層統合記述: 制度(権限・インセンティブ・情報共有),プロトコル(協調手順・タイミング制約),アルゴリズム(計算手法の抽象参照)の3層を単一言語内で一貫して記述する。筆者らが調査した範囲では,この3層を単一言語で扱う既存のDSLは見当たらない。
(2) 制度のパラメトリック設計: 意思決定の集中度β,情報共有度α,インセンティブ強度λ等の制度設計変数を数値パラメータとして定義し,モードマップの構築を直接支援する。
(3) 記述→検証→配備→監視の一貫サイクル: 設計段階の形式検証(無矛盾性・安全性),配備時のコード生成,運用時のランタイム監視を一貫した言語基盤の上で扱うことを目指す。