2. 言語の目的
2.1 CADLが解決する問題
本章は,第1章と同じく,言語の目標を述べるものである。リファレンス実装が現時点で提供する範囲は,第10章と付録AのA.12節に示す。
CADLは,SoSにおける「制度・プロトコル・アルゴリズムの3層を単一言語で記述し,形式検証で無矛盾性・安全性を設計段階で検証する」ことを目的とする。これにより,制度に対する「記述→検証→配備→監視」のエンジニアリングサイクルの確立を目指す。
CADLが解決する具体的な問題は以下のとおりである。
制度の形式化: 自然言語の制度記述を,機械可読かつ検証可能な形式に変換する。権限構造,情報共有範囲,インセンティブ設計を定量的パラメータとして記述可能にする。
無矛盾性の自動検証: 複数の契約間の矛盾,権限の衝突,デッドロックの可能性を設計段階で自動検出する。
動的制度切替の記述: 環境条件の変化に応じた制度の動的切替(例: C-SoSからA-SoSへの遷移)を安全性保証付きで記述する。
構成的検証の支援: 構成システムの追加・離脱時に,全体の再検証ではなく差分検証で整合性を確認する。
ランタイム監視: 配備された制度の実行時監視と,契約違反の検出・対応を支援する。
2.2 設計哲学と原則
宣言的記述: 制度の「何を」実現するかを記述し,「どのように」は処理系が決定する。制度設計者は実装詳細から解放される。
階層的構成: SoS設計の五層フレームワーク[Shimoyama & Matsubara, 2026]に対応した階層的な記述構造を採用する。五層は,(1) 目的(Policy),(2) 制度・ガバナンス(Governance),(3) 制御・協調(Control),(4) 実行・運用(Execution),(5) 環境・外乱(Environment)である。CADL自身の3層は,この分類の中に次のように位置づく。
| 五層フレームワーク | CADLでの現れ方 |
|---|---|
| 1. 目的(Policy) | CADLの層ではない。目的から導かれる評価基準は metrics: に書く。 |
| 2. 制度・ガバナンス | 制度層:actors:(参加者),contracts:(権限,情報,責任,インセンティブ),および transitions:。 |
| 3. 制御・協調 | プロトコル層(protocols:,協調の手順)とアルゴリズム層(algorithms:。中央・ローカルのアルゴリズムを名前で指定し,内部は記述しない)。 |
| 4. 実行・運用 | 言語の対象外。コード生成とシミュレータ設定を通じて到達する(付録D)。 |
| 5. 環境・外乱 | CADLの層ではない。環境についての前提は context: に書く。 |
パラメトリック制度設計: 情報共有度(α),意思決定の集中度(β),インセンティブ強度(λ)等の制度パラメータを数値として操作可能にする。
契約ベース構成: assume-guarantee契約に基づき,各アクターの前提条件と保証を明示し,構成的検証を可能にする。
漸進的精緻化: 抽象的な制度記述から詳細な実装仕様へ段階的に精緻化できる。初期設計段階では自然言語に近い記述を許容し,検証に必要な情報を段階的に追加する。
ドメイン非依存: 交通・エネルギー・IoT・日常生活等,特定のドメインに依存しない汎用的な記述能力を持つ。ドメイン固有の拡張はライブラリで提供する。
万人理解性(Universal Readability): 学生・企業の実務者・自治体職員・市民など,プログラミングや形式手法の専門知識を持たないステークホルダでも,制度記述の意図と構造を理解できること。YAMLベースの宣言的構文,自然言語に近い語彙,段階的記述レベル,AI支援による敷居の低減をその手段とする。
2.3 想定する利用者と適用場面
CADLは「万人理解性」の原則に基づき,専門家から非専門家まで幅広い利用者を想定する。以下に主要な利用者像と,それぞれの関与レベルを示す。
SoS設計者・アーキテクト: 大規模SoSの制度構造を設計・検証する専門家。検証レベルの記述を主に使用し,形式的なassume-guarantee契約を定義する。
制度設計研究者: ゲーム理論・メカニズムデザイン等の理論を実験的に検証する研究者。設計レベルのパラメトリック記述を活用し,制度パラメータ空間を探索する。
学生・教育関係者: 大学・高専の講義で,SoS・制度設計の概念を学ぶ学生および教員。概要レベルの記述から入り,段階的に設計レベルへ進む。教育用テンプレートとAI支援が学習を加速する。
企業の実務者・プロジェクトマネージャ: 部門間の協業ルールやサプライチェーンの制度を設計する実務者。自然言語に近い概要レベルの記述を用い,AIが設計レベルへの精緻化を支援する。
自治体職員・政策立案者: 地域の公共サービス連携やスマートシティ構想における制度設計を担当する行政関係者。ビジュアライゼーションとAI支援により,技術的詳細を意識せずに制度の議論・合意形成に参加する。
市民・コミュニティ参加者: 家庭内ルール,マンション管理組合,地域コミュニティの制度をCADLで記述し,AIが支援する利用者。概要レベルの記述とAIとの対話を通じて,日常的な制度設計に参加する。
AIエージェント: LLMによる自然言語からCADL記述への自動変換,およびCADLに基づく制度推薦を行うAIシステム。全レベルの記述を生成・処理する。
以下に,利用者ごとの主な記述レベルと支援手段の対応を示す。
| 利用者 | 主な記述レベル | 主な支援手段 |
|---|---|---|
| SoS設計者 | 検証レベル(形式的記述) | IDEプラグイン・型検査器 |
| 研究者 | 設計レベル(パラメトリック) | パラメータ探索ツール |
| 学生・教員 | 概要→設計レベル | 教育テンプレート・チュートリアル |
| 企業実務者 | 概要レベル→AI精緻化 | AI支援・ビジュアライザ |
| 自治体職員 | 概要レベル | ビジュアライゼーション・AI対話 |
| 市民 | 概要レベル(AI支援) | NL→CADL変換・AIアシスタント |
| AIエージェント | 全レベル | API・パーサライブラリ |