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リアルタイムOSの利用動向とITRONに関するアンケート調査結果



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1.アンケート調査の概要

昨年度実施したアンケートとほぼ同じ内容で、ITRON仕様OSの利用動向と利 用者の評価、ITRON関連の活動に対する要求事項を調査し、その結果を分析し た。その概要は次の通りである。

1.1 アンケート調査期間

1997年11月〜1998年1月

1.2 アンケート調査の実施方法と回答数

(1) 調査の実施方法

アンケート用紙を次の方法で配布し、回答を収集・集計した。

アンケート用紙は、主に日本国内に対して配布し、その回答を集計・分析 した。

(2) 配布数と回答数

上記の方法でアンケート用紙を配布したところ、438通の回答を回収するこ とができた。配布方法別の配布数と回答数は次の通り。

配布数 回答数 回収率
ダイレクトメイル 1,145 277 24.2%
展示会 811 161 19.9%

今年度の調査において、ダイレクトメイル分の回収率は昨年度 (25.0%) と ほぼ同じである。

展示会におけるアンケート用紙配布では、昨年度の反省でアンケート用紙 の配布方法を工夫した結果、昨年度の回収率 (6.4%) を大幅に上回り、ダイレ クトメールの回収率に近づける事ができた。

インターネット上の調査は今年度は行わなかった。

1.3 アンケート対象と調査項目

アンケート調査の趣旨から、リアルタイムOSの (潜在的な) ユーザである 組み込み機器の開発技術者を想定回答者としてアンケートを作成した。主な調 査項目は次の通りである。

(1) 最近開発した組み込み機器について

最近開発した最大3つの組み込み機器について、アプリケーション分野、シ ステムの規模、使用したリアルタイムOSを問う項目。

(2) リアルタイムOSの問題点と選択基準

(3) ITRON仕様OSおよび関連する活動等の周知度

(4) ITRON仕様OSの長所・短所

ITRON仕様OSを使用/開発ないしは調査/検討したことがある人に対して、 ITRON仕様OSの長所と短所を問う項目。

(5) ITRONに期待すること

1.4 アンケート回答者の職種

設計・開発が約85%を占めており、アンケートの想定対象者によって回答さ れていることがわかる。

グラフはこちら (7.9KB)
職種 回答率
企画・管理 6.7%
設計・開発 84.5%
検査・品質管理 1.2%
営業技術・営業支援 4.6%
その他 3.0%
有効回答数 : 433

表/グラフ1: 回答者の職種

2.調査結果の分析

2.1 最近開発した組み込み機器について

アンケート回答者ないしは回答者の所属する会社が最近開発した最大3つの 組み込み機器について、アプリケーション分野、CPUの規模、プログラムサイ ズ、使用したリアルタイムOSを質問した。

これらの設問の回答率の計算は、組み込み機器の総数を母数としてい る。

(1) 最近開発した組み込み機器のアプリケーション分野

コンシューマ向けの機器 (家電機器,AV機器,娯楽/教育機器,個人用情報 機器,通信機器(端末)) が約3割、工業用の機器 (工業制御/FA機器/設備機器) が4割強を占め、残りの2割5分はその他の産業用機器となっている。このデー タが設計数に対する統計であることを考えると、妥当な結果と考えられる (コ ンシューマ向けの機器は、1種類の機器あたりの生産個数は多いが、機器の種 類という意味ではそれほど多くない)。

グラフはこちら (14.6KB)
アプリケーション分野 回答率
家電機器 2.5%
AV機器 7.7%
娯楽/教育機器 2.7%
個人用情報機器 4.1%
パソコン周辺機器/OA機器 8.0%
通信機器 (端末) 11.0%
通信機器 (ネットワーク設備) 11.4%
運輸機器 6.8%
工業制御/FA機器 18.1%
設備機器 2.5%
医用機器/福祉機器 5.2%
その他の業務用機器 7.3%
その他の計測機器 8.7%
その他 4.0%
有効回答数 : 675

表/グラフ2: 最近開発した組み込み機器のアプリケーション分野

※ アプリケーション分野は、この表を参考にして選択してもらった。

(2) 最近開発した組み込み機器に使用したCPU

最近開発された機器では、32ビットのCPUが占める率が最も高く、約48%を 占めている。次いで16ビット,8ビットの順となっており、組み込みシステム の分野においても、32ビットCPUが主流となってきていることがわかる。64ビッ トCPUが使用されるケースはまだ少数である。4ビットが約1%と極めて少なくなっ ている。

ただし、この結果は次の理由により、実際の設計数よりも規模が大きい方 にかたよってデータが出ていることが予想される。この調査では、最近開発し た組み込み機器最大3つについて回答してもらっているが、リアルタイムOSに 関する調査であることから、多くの機器を開発している場合には、回答する機 器選ぶ際に (リアルタイムOSを使っているような) 大きい機器にかたよること が予想される。また、1つの機器に複数のプロセッサを使っている場合には、 主たるプロセッサについて答えていることからも、4ビットのプロセッサが実 際よりも少なくなっていることが予想される。

グラフはこちら (9.2KB)
使用したCPU 回答率
4ビット 1.2%
8ビット 16.0%
16ビット 32.1%
32ビット 48.4%
64ビット 1.2%
DSP他 1.0%
有効回答数 : 675

表/グラフ3: 最近開発した組み込み機器に使用したCPU

(3) 最近開発した組み込み機器のプログラムサイズ

プログラムサイズが64KB未満、64KB以上256KB未満、256KB以上1MB未満、 1MB以上がいずれも約4分の1という結果は昨年の調査とほとんど変化していな い。1MB以上の割合がわずかながら増えていることは、組み込みソフトウェア の大規模化が進行していることを示している。継続調査による変化に興味がも たれる。

グラフはこちら (8.6KB)
プログラムサイズ 回答率
64KB未満 24.7%
64KB以上 256KB未満 25.3%
256KB以上 1MB未満 25.2%
1MB以上 24.7%
有効回答数 : 675

表/グラフ4: 最近開発した組み込み機器のプログラムサイズ

使用CPU別のプログラムサイズのグラフからは、大きいCPUを使っているケ ースほど、プログラムサイズも大きくなっていることが確認できる。

最も多く使われている32ビットのCPUでは、40%を越えるケースでプログラ ムサイズが1MB以上となっており、ここでも組み込みシステムの大規模化が裏 付けられた形となっている。一方で、256KB未満のケースも4分の1弱あり、高 性能のプロセッサを使っていてもプログラムサイズが小さいケースも無視する ことはできない。

グラフはこちら (12.4KB)
使用したCPU プログラムサイズ 母数
64KB未満 64KB以上
256KB未満
256KB以上
1MB未満
1MB以上
4ビット 85.7% 14.3% 0.0% 0.0% 7
8ビット 81.5% 12.0% 5.6% 0.9% 108
16ビット 23.0% 37.8% 27.2% 12.0% 217
32ビット 6.4% 22.3% 30.3% 41.0% 327
64ビット 0.0% 0.0% 50.0% 50.0% 8
DSP他 25.0% 25.0% 25.0% 25.0% 8
総計 24.7% 25.3% 25.2% 24.7% 675
有効回答数 : 675

表/グラフ5: 使用CPU別のプログラムサイズ
※ 棒グラフの上の数字はその項目の母数を示す。

(4) 開発に使用したプログラミング言語

これは今回新たに追加した設問である。回答は、主に用いたものに「1」を、 複数のプログラミング言語を用いた場合は、2番目、3番目に多く利用したもの にそれぞれ「2」、「3」を記入していただく形を取った。以下の表とグラフで 「単数回答」とあるものは、「1」を記した項目の全体に対する比率を示した ものである。「複数回答」とあるものは、各項目について、どれだけの比率の 回答者が「1」、「2」または「3」を記したかを示している。

単数回答では、C言語が7割弱、アセンブリ言語が2割弱である。複数回答で 見るとアセンブリ言語が45%を越え、C言語を主体にしながら、アセンブリ言語 を併用するケースが多い事をうかがわせる。C++は複数回答で6.7%となり広が りを見せている。Javaは1%に満たず、まだ組み込み機器開発にはほとんど使わ れていないという結果となった。

その他の言語としては、PL/M、VisualBasicという回答が複数見られ た。

グラフはこちら(単数回答) (9.3KB)
(複数回答) (11.1KB)
使用したプログラミング言語 回答率
単数回答 複数回答
C言語 68.3% 76.0%
アセンブリ言語 19.3% 45.8%
C++言語 (Embedded C++を含む) 4.7% 6.7%
Java言語 0.9% 0.9%
その他 2.5% 3.0%
有効回答数 : 675

表/グラフ6: 開発に使用したプログラミング言語

(5) 最近開発した組み込み機器に使用したOS

全体的な傾向としては、OSを用いていないものが25.0%、ITRON仕様OSが 28.7% (内、市販ITRON仕様OS 16.4%、自社用ITRON仕様OS 12.3%)、自社用独自 仕様OSが17.6%、その他の市販OSが26.0%となっている。OSを用いていないもの を除くとITRON仕様OSの比率は3分の1を越えている。また市販のOSの中では、 ITRON仕様OSが36%を占める。

その他の市販OSの中では、Microsoft 社製のOS (MS-DOS,Windowsなど) が 昨年よりシェアを伸ばし10.4%、Wind Rivers Systems 社製のOS (VxWorksなど) が4.1%、Ingegrated Systems 社 (ISI) 製のOS (pSOS など) が2.4%、CTRON仕 様OSが2.2%、Accelerated Technology 製のOS (Nucleus Plusなど) と Microware Systems 社製のOS (OS-9など) が各1.5%、その他はいずれも1%未満 となっている。

今回の調査では「OSを用いていない」に「必要がないので」と「問題があっ て」に細分した選択肢を設けたが、内訳は「必要がないので」が7割強を占め た。

グラフはこちら (13.9KB)
使用したOS 回答率
市販のITRON仕様OS 16.4%
自社用のITRON仕様OS 12.3%
Microsoft社製のOS (MS-DOS、Windows など) 10.4%
Wind Rivers Systems社製のOS (VxWorks など) 4.1%
Integrated Systems (ISI) 社製のOS (pSOS など) 2.4%
CTRON仕様OS 2.2%
Accelerated Technology社製のOS (Nucleus Plus など) 1.5%
Microware Systems社製のOS (OS-9 など) 1.5%
その他の市販OS 6.2%
自社用独自仕様OS 17.6%
OSを用いていない 25.0%
有効回答数 : 675

表/グラフ7: 最近開発した組み込み機器に使用したOS

使用したCPUの規模別の使用OSには、次のような傾向がみられる。まず、4 ビットでOSを使った例はない。8ビットになると、約4割がOSを使っている。そ の内の半分強 (つまり全体の2割強) が自社用独自仕様OS、約5分の1 (全体の 約12分の1) がITRON仕様OSとなっている。16ビットでは約3割がOS未使用、約2 割が自社用独自仕様OSで、あわせてほぼ半数である。32ビットでは、1割弱が OS未使用、約15%が自社用独自仕様OSで、あわせても4分の1に満たない。この 差にも関わらず、どちらにおいてもITRON仕様OSの使用率は30%を越えており、 CPUの規模によらずITRON仕様OSが広く使われていることがわかる。16ビットと 32ビットでのOS未使用や自社用独自仕様OSの比率の差は、その他の市販OSの比 率の差に対応している。

グラフはこちら (12.1KB)
使用したCPU 使用したOS 母数
I
T
R
O
N


O
S
C
T
R
O
N


O
S






O
S







O
S
O
S






4ビット 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% 7
8ビット 8.3% 0.0% 8.5% 21.3% 61.9% 108
16ビット 35.0% 0.5% 14.7% 19.8% 30.0% 217
32ビット 32.4% 4.3% 39.1% 15.3% 8.9% 327
64ビット 0.0% 0.0% 62.5% 37.5% 0.0% 8
DSP他 37.5% 0.0% 25.0% 0.0% 37.5% 8
総計 28.7% 2.2% 26.5% 17.6% 25.0% 675
有効回答数 : 675

表/グラフ8: 使用CPU別の使用OS
※ 棒グラフの上の数字はその項目の母数を示す。

プログラムサイズ別の使用OSは、次のようになっている。まずプログラム サイズ64KB未満では、5割強がOS未使用で、2割が自社用独自仕様OSと、8ビッ トCPUの場合と似た傾向を示している。他のケースでは、ITRON仕様OSの使用比 率はいずれも30%前後で、プログラムサイズによらずITRON仕様OSが使われてい ることがわかる。自社用独自仕様OSは、(64KB未満の小さいシステムを除いて) プログラムサイズが大きくなるに連れて使用率が下がる傾向がある。OS未使用 の比率はプログラムサイズが大きくなるほど下がる。その分、その他の市販OS の使用率が大きくなる。プログラムサイズが1MB以上の機器では、44%がその他 の市販OSを使用している。

グラフはこちら (12.2KB)
プログラムサイズ 使用したOS 母数
I
T
R
O
N


O
S
C
T
R
O
N


O
S






O
S







O
S
O
S






64KB未満 17.4% 0.0% 8.9% 19.8% 53.9% 167
64KB以上 256KB未満 28.1% 0.6% 19.8% 23.4% 28.1% 171
256KB以上 1MB未満 37.1% 2.4% 32.3% 15.3% 12.9% 170
1MB以上 32.3% 6.0% 44.3% 12.0% 5.4% 167
総計 28.7% 2.2% 26.5% 17.6% 25.0% 675
有効回答数 : 675

表/グラフ9: プログラムサイズ別の使用OS
※ 棒グラフの上の数字はその項目の母数を示す。

最後に、アプリケーション分野別に使用OSを見る。グラフでは、ITRON仕様 OSの比率が高い分野ほど上に配置した。サンプル数 (比率を求める場合の母数) が少ないアプリケーション分野もあるが、一般的な傾向としては、コンシュー マ向けの機器の多く (個人用情報機器,通信機器(端末),AV機器,家電機器) においてITRON仕様OSの比率が30%程度を越えており、コンシューマ向け機器の 分野においてITRON仕様OSが広く使われていることがわかる。

設備機器,通信機器(ネットワーク設備),パソコン周辺/OA機器,工業制 御/FA機器の各分野でもITRON仕様OSは25〜35%程度で、ITRON仕様OSは広く使わ れている。通信機器(ネットワーク設備)の分野では、ITRON仕様OSの使用率に CTRON仕様OSの使用率を加えると50%近くになる。その他の市販OSの比率が高い のは、個人用情報機器と工業制御/FA機器をはじめとする産業用の機器である。 ITRON仕様OSの使用率が最も低い運輸機器の分野では、昨年の調査と比べて自 社用独自仕様OSの比率が下がり、その他の市販OSの比率が上がった。

グラフはこちら (17.4KB)
アプリケーション分野 使用したOS 母数
I
T
R
O
N


O
S
C
T
R
O
N


O
S






O
S







O
S
O
S






個人用情報機器 50.0% 0.0% 32.1% 17.9% 0.0% 28
通信機器 (端末) 41.9% 1.4% 21.6% 16.2% 18.9% 74
AV機器 36.5% 0.0% 21.2% 17.3% 25.0% 52
設備機器 35.3% 5.9% 29.4% 23.5% 5.9% 17
通信機器 (ネットワーク設備) 32.5% 15.6% 29.9% 11.7% 10.4% 77
家電機器 29.4% 0.0% 17.6% 11.8% 41.2% 17
娯楽/教育機器 27.8% 0.0% 16.7% 27.8% 27.8% 18
パソコン周辺機器/OA機器 27.8% 0.0% 16.7% 27.8% 27.8% 54
工業制御/FA機器 27.0% 0.0% 32.8% 15.6% 24.6% 122
医用機器/福祉機器 22.9% 2.9% 22.9% 17.1% 34.3% 35
運輸機器 6.5% 0.0% 21.7% 19.6% 52.2% 46
その他の業務用機器 22.4% 0.0% 24.5% 32.7% 20.4% 49
その他の計測機器 13.6% 0.0% 37.3% 10.2% 39.0% 59
その他 40.7% 0.0% 25.9% 7.4% 25.9% 27
総計 28.7% 2.2% 26.4% 17.6% 25.0% 675
有効回答数 : 675

表/グラフ10: アプリケーション分野別の使用OS
※ 棒グラフの上の数字はその項目の母数を示す。

2.2 リアルタイムOSの問題点と選択基準

すべてのアンケート回答者に対して、リアルタイムOSの問題点と選択基準 について複数の選択肢を提示し、最も該当するもの1つに「1」、その他該当す るもの最大2つに「2」、「3」を記してもらった。選択肢の中には「その他」 も用意し、それを選んだ場合には、問題点/選択基準を自由に記述してもらっ た。グラフの「単数回答」と「複数回答」の意味は、2.1 (4) の場合と同様で ある。

この設問の回答率の計算は、回答者数を母数としている。

(1) リアルタイムOSの問題点

リアルタイムOSの問題点として最も多く選ばれたのは、「使いこなせる技 術者が不足またはいない」で、全体の半数弱が問題点と指摘しており、27.5% の回答者が最大の問題点であるとしている。

単数回答では、それに次いで「開発環境やツールが不足」と「価格が高い」 が10%を越えている。さらに「OSにより仕様の違いが大きく切り替えの負担が 大きい」「性能・機能が要求条件に適合しない」「OSのサイズや使用リソース が大きすぎる」がいずれも8%程度で並んでいる。前回の結果と比べて、「開発 環境やツールが不足」の比重が増している。

複数回答で見た場合も、「開発環境やツールが不足」の36%と、「価格が高 い」の30%が他の項目より抜き出ている。開発環境やツールの問題は、最大の 問題ではないが、それに次ぐ問題ととらえられていると考えることができる。

グラフはこちら(単数回答) (12.0KB)
(複数回答) (13.5KB)
リアルタイムOSの問題点 回答率
単数回答 複数回答
使いこなせる技術者が不足またはいない 27.5% 48.8%
開発環境やツールが不足 14.5% 36.3%
価格が高い 12.1% 30.3%
OSにより仕様の違いが大きく切り替えの負担が大きい 8.5% 20.6%
性能・機能が要求条件に適合しない 8.5% 18.7%
OSのサイズや使用リソースが大きすぎる 8.1% 20.2%
ソフトウェア部品が不足 3.6% 13.1%
ベンダによるサポートが不十分 2.1% 10.9%
その他 3.1% 6.4%
有効回答数 : 422

表/グラフ11: リアルタイムOSの問題点

「開発環境やツールを不足」を挙げた回答者に対して、具体的にどのよう なツールが不足しているかを具体的に記述してもらう設問に対しては、半数を 超える回答者がデバッガ関連を挙げている。特に、タスクを認識できるデバッ ガを挙げている回答者が目立つ。また、ICEや (リアルタイム性の検証を含め て) 性能評価/検証のためのツールを挙げているケースも多い。その他、設計 支援など上流工程をサポートするツールやパソコン上で動作するツールを要望 する声もあり、全体的にみると、ソフトウェア開発のためのツールが網羅的に 挙げられている。

(2) リアルタイムOSの選択基準

単数回答では、「性能・機能が要求条件に適合するから」が27%を占めてお り、最も重要な選択基準となっていることがわかる。それに次いで、「自社内 で使用実績があるから」「世の中で多く使われているから」という実績重視の 選択基準が、両者をあわせると29%にのぼっている。それに対して「ベンダの サポートが良いから」はわずか2%しかない。ベンダのサポートが重視されてい ないのか、いずれのベンダも十分なサポートをしており問題となっていないの かが、興味があるところである。

複数回答でみると、実績重視の選択基準は相対的に小さいのに対して、単 数回答ではいずれも10%弱であった「良い開発環境やツールがあるから」「価 格が安いから」が相対的に高い比率となっており、2番目ないしは3番目の選択 基準として重視されていることがわかる。

その他の中では、CPUを決めると他に選択がないという回答が比較的多かった。

グラフはこちら(単数回答) (14.5KB)
(複数回答) (13.8KB)
リアルタイムOSの選択基準 回答率
単数回答 複数回答
性能・機能が要求条件に適合するから 27.0% 42.0%
自社内で使用実績があるから 16.9% 39.5%
世の中で多く使われているから 11.9% 25.0%
信頼性が高いから 9.5% 24.8%
価格が安いから 7.4% 24.8%
良い開発環境やツールがあるから 6.0% 27.7%
OSのサイズおよび使用リソースが小さいから 5.3% 20.8%
多種類のチップに対応しているから 4.8% 14.3%
ソフトウェア部品が充実しているから 2.4% 9.3%
ベンダのサポートが良いから 2.1% 8.1%
その他 3.3% 8.1%
有効回答数 : 419

表/グラフ12: リアルタイムOSの選択基準

2.3 ITRON仕様OSおよび関連する活動等の周知度

以下の設問の回答率の計算も、回答者数を母数としている。

(1) ITRON仕様OSの周知度

「ITRON仕様OSを使用/開発したことがある」「ITRON仕様OSを調査/検討し たことがある」をあわせて約3分の2、逆に「全然存在を知らなかった」とした 回答者は約2%と、ITRON仕様の知名度が十分に高いことが確認できた。「ITRON 仕様OSを使用/開発したことがある」とした回答者が約40%であることは、 ITRON仕様OSの使用率が約4分の1であることと適合していると考えていいだろ う。今後、「話しに聞いたことがある」とした回答者にITRON仕様について調 査/検討させるような、より一層の広報活動が必要と考えられる。

グラフはこちら (9.2KB)
ITRON仕様OSの周知度 回答率
ITRON仕様OSを使用/開発したことがある 40.5%
ITRON仕様OSを使用/開発したことはないが
調査/検討したことがある
28.6%
話に聞いたことはあるが
調査/検討したことはない
28.8%
全然存在を知らなかった 2.1%
有効回答数 : 427

表/グラフ13: ITRON仕様OSの周知度

(2) ITRONに関連する広報活動の周知度

昨年と比べて「ITRONホームページ」の周知度が26%から44%へ大きく伸びた。 「展示会でのブース出展講演」と「ITRONオープンセミナー」の周知度も5%程 伸びている。一方ITRON専門委員会の公式な広報誌である「ITRONニュースレタ ー」の周知度がほとんど伸びておらず、一層の広報活動が求められる。

グラフはこちら (10.5KB)
ITRONに関連する広報活動の周知度 回答率
展示会でのブース出展や講演 72.4%
ITRONホームページ 43.9%
ITRONオープンセミナー 32.2%
ITRONニュースレター 24.8%
どれも知らない 15.4%
有効回答数 : 428

表/グラフ14: ITRONに関する広報活動の周知度

(3) ITRON関連の委員会・研究会活動の周知度

ITRON専門委員会の周知度が50%を越えた点は広報活動の成果と考えられる が、1996年から相次いで活動を開始した技術委員会と研究会については、10% から20%の周知度にとどまった。

グラフはこちら (11.1KB)
ITRONに関連する委員会・研究会活動の周知度 回答率
ITRON専門委員会 50.8%
ITRONハードリアルタイムサポート研究会 21.2%
Embedded TCP/IP 技術委員会 11.5%
RTOS 自動車応用技術委員会 14.4%
Java on ITRON 技術委員会 14.1%
どれも知らない 40.5%
有効回答数 : 425

表/グラフ15: ITRONに関する委員会・研究会活動の周知度

(4) ITRONに関連するその他の活動の周知度

μITRON3.0仕様自体は半数に迫る周知度だが、ITRON専門委員会の活動である 「μITRON3.0互換性チェックシート」や「ITRON仕様準拠製品登録制度」はま だまだ周知されていない。これはITRONニュースレターの周知度の低さとも関 連すると思われる。TRONプロジェクトの広報媒体である「TRONプロジェクト国 際シンポジウム」、「TRONSHOW」および「TRONWARE」の周知度は、前回の調査 とほぼ同じ結果であった。

グラフはこちら (10.5KB)
ITRONに関連するその他の活動の周知度 回答率
μITRON3.0仕様 46.7%
μITRON3.0互換性チェックシート 15.1%
ITRON仕様準拠製品登録制度 19.6%
TRONプロジェクト国際シンポジウム 21.8%
TRONSHOW 26.3%
TRONWARE 27.3%
ITRON Club メーリングリスト 11.4%
どれも知らない 36.2%
有効回答数 : 403

表/グラフ16: ITRONに関連するその他の活動の周知度

2.4 ITRON仕様OSの長所・短所

2.3の(1)の設問で、ITRON仕様OSを使用/開発ないしは調査/検討したことが あるとした回答者に対して、ITRON仕様OSの長所と短所を尋ねた。複数の選択 肢を提示し、最も該当するもの1つに「1」、その他該当するもの最大2つに順 に「2」、「3」を記してもらった。グラフの「単数回答」と「複数回答」の意 味は、2.1 (4) の場合と同様である。

以下の設問の回答率の計算も、回答者数を母数としている。

(1) ITRON仕様OSの長所

単数回答のグラフにおいて、「仕様の理解が容易」「OSのサイズおよび使 用リソースが小さい」がそれぞれ20%を越えており、ITRON仕様OSの長所が良く 理解されている。特に、「仕様の理解が容易」を挙げた回答者が多かったこと は、技術者の教育を重視するというITRON仕様の設計方針が成功していること を示している。また、「多種類のチップに対応している」という長所を挙げて いる回答者も多く、ITRON仕様OSが多くのCPU用に実装されていることが評価を 得ている。ついで「価格が安い」を挙げている回答者が多い。それに対して、 「良い開発環境やツールがある」を挙げる人は極めて少なかった。複数回答で みた場合も、同じ傾向である。

その他としては、仕様がオープンであることを挙げる人が比較的多かっ た。

グラフはこちら(単数回答) (12.7KB)
(複数回答) (14.5KB)
ITRON使用OSの長所 回答率
単数回答 複数回答
仕様の理解が容易 22.3% 41.4%
OSのサイズおよび使用リソースが小さい 21.9% 40.1%
多種類のチップに対応している 16.1% 31.8%
価格が安い 14.0% 30.1%
性能が高い 4.5% 13.0%
機能が豊富 4.1% 10.3%
扱える技術者が多い 2.4% 7.2%
良い開発環境やツールがある 1.4% 5.1%
サポートが良い 0.3% 0.7%
ソフトウェア部品が充実している 0 1.0%
その他 5.8% 8.2%
目立った長所はない 4.8% 6.5%
有効回答数 : 292

表/グラフ17: ITRON仕様OSの長所

(2) ITRON仕様OSの短所

単数回答で「開発環境やツールを不足」を挙げた回答者が全体の4分の1を 越えている。前回調査と比べてやや率が低くなったものの、しばしば指摘され る問題点がここでも再確認された形になっている。次いで、「目立った短所は ない」とした回答者が多く、16.2%となっている。複数回答では、単独回答で いずれも10%前後であった「ソフトウェア部品が少ない」「扱える技術者が不 足」「実装依存部分が大きくソフトウェアの移植性が悪い」が相対的に多くなっ ている。特に、今回追加した「ソフトウェア部品が少ない」という選択肢の回 答率が高かったことは、ソフトウェアの移植性を向上させ、ソフトウェア部品 の流通性を高めるような標準化が求められていることが示している。

その他の回答としては、海外での認知度の低さの指摘が複数あった。

グラフはこちら(単数回答) (14.1KB)
(複数回答) (15.3KB)
ITRON使用OSの短所 回答率
単数回答 複数回答
開発環境やツールが不足 25.7% 41.9%
実装依存部分が大きくソフトウェアの移植性が悪い 10.6% 16.9%
扱える技術者が少ない 8.5% 18.7%
ソフトウェア部品が少ない 6.7% 21.8%
機能が不足 6.3% 11.6%
対応しているチップが少ない 4.2% 7.7%
サポートが悪い 4.2% 10.9%
性能が低い 3.2% 6.3%
価格が高い 3.2% 5.6%
仕様の理解が難しい 2.8% 7.7%
OSのサイズおよび使用リソースが大きい 2.8% 5.3%
その他 4.6% 6.3%
目立った短所はない 16.2% 16.2%
有効回答数 : 284

表/グラフ18: ITRON仕様OSの短所

2.5 ITRONに関連して取り組みを期待すること

この設問も、最も期待するものから最大3つを選択していただく形式で回答を いただいた。単数回答では開発環境(特にデバッガ)とのインタフェースの標準 化を約4分の1の方が選択しており、デバッガによるOSサポートへの期待がここ でも示された。複数回答では、ソフトウェア部品とのインタフェースの標準化 が開発環境とのインタフェースの標準化に迫る回答率となり共に4割を越えた。 その後にC++/Java言語バインディングの標準化、フリーのITRON仕様OS、ネッ トワークサポートが約4分の1で並んだ。活動中のハードリアルタイムサポート 研究会の主要なテーマであるハードリアルタイムサポートは10%にとどまって いる。一方サブテーマとして取り組んでいるアプリケーション設計ガイドライ ンの作成は20%の回答率となっており、リアルタイムOSを利用する開発手法の 方が切実な課題であることがうかがえる。

この設問の回答率の計算も、回答者数を母数としている。

グラフはこちら(単数回答) (15.4KB)
(複数回答) (16.3KB)
取り組みを期待すること 回答率
単数回答 複数回答
開発環境とのインタフェースの標準化 24.2% 45.3%
ソフトウェア部品のインタフェースの標準化 14.9% 42.2%
C++/Java言語バインディングの標準化 11.5% 27.1%
フリーのITRON仕様OS 9.4% 26.9%
ネットワークサポート 8.6% 25.2%
応用分野を絞った標準化 5.0% 9.8%
アプリケーション設計ガイドラインの作成 4.8% 20.1%
教育セミナーの開催 4.3% 11.3%
ハードリアルタイムサポート 4.3% 10.3%
マルチプロセッササポート 1.4% 7.0%
フォールトトレランスサポート 0.7% 6.0%
その他 1.0% 2.2%
どれも期待しない 2.4% 2.4%
有効回答数 : 417

表/グラフ19: ITRONの今後の取り組みに対する要望

ITRONに関する活動に対する意見・要望を自由に記述する設問に対しては、 記入している回答者の総数が少なく傾向を読みとることは難しいが、宣伝・広 報活動の充実や、よりコンパクトなOS仕様の開発、初心者向けのプログラミン グ例の公開を望む回答者が複数みられた。また調査時期がJTRONの発表と重なっ た事もありJTRONに関するコメントも見られた。

3.総括

今年度の調査は、昨年度に実施した内容を踏襲し、一部を改める形で行っ た。寄せられた回答数は、昨年の5割増しとなり、統計的な価値が高まったと 考える。昨年度の結果と比べて全体の傾向に特に大きな変化は見られなかった。 使用したOSとしてITRON仕様OSが3分の1を越えており (OSを使用していないケ ースを除いた比率)、他のOS仕様を大きく引き離して、国内においては業界標 準仕様の地位を確かなものにしていることがわかる。

ITRON仕様OSの長所・短所については、昨年度の結果と同様に、ITRON仕様 OSの短所として開発環境やツールの不足を挙げた回答者が極めて多かった。 ITRON専門委員会としてもこれを問題として認識しており、一部の問題につい て解決のための活動を始めようとしている。周知度に関しては、ITRON仕様OS 自身の周知度がかなり高いレベルにあることは確認できたが、一方で関連する 活動等の周知度は十分ではなく、一層の広報活動が必要と考えらえる。

OSを使っていないという回答率は、昨年度の結果と比べて若干減少したが、 全体の4分の1である。小さい規模のシステムにおいてOSが適用できないのはや むを得ないと考えられるが、規模の大きいシステムにおいてもOS未使用のケー スがあり、リアルタイムOSの普及のためにより一層の努力が必要と考えられる。 特に、リアルタイムOSの問題点として技術者の不足を挙げた回答者が多いこと から、リアルタイムOSを使える技術者の教育に力を入れることが重要と考えら れる。

参考


※ この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
- Back to ITRON Survey Activities (in Japanese)